変化球の練習をしていると、自分のイメージする変化をしてくれないということがよくあります(曲がり過ぎるという場合も含めて)。 そのような場合、どのように練習に取り組んでいけばいいのでしょうか?
野球の変化球がなぜ変化するのか?
変化する理由から考えてみたいと思います。
変化球はなぜ変化するのか?
野球の変化球には大きく分けて二種類存在します。一つはカーブやシンカー、スライダー、シュートなどの回転を加える変化球、もう一つはフォークやナックルのように回転をなくす変化球です。
ここでは回転系の変化球について説明します。
回転系の変化球の仕組み
回転を加える変化球はボールの左右や上下に気圧差を生じさせることによって変化が生まれます。 そういう意味では実はバックスピンの効いたストレートも変化球の一種であると位置づけることができます。
実際にピッチャーが投げる球は重力の影響が大きく、回転がどの程度変化に影響を与えるのかイメージしにくいので、ダムの上からバスケットボールを落とすこちらの実験の動画をまず見てください。
こちらの実験では、回転を加えない時はまっすぐ下に落ちるのに対し(若干左右に変化しているのはボールが空気抵抗を受けてわずかに回転したため)、バックスピンを加えた時は放物線を描くようにダムの壁から離れていっています。
このように、ただボールに回転を加えるだけでボールの軌道を大きく変化させることができるのです。
ではなぜ回転を加えると軌道が変化させることができるのでしょうか?
それはボールがマグナス力を受けるからです。
マグナス力とは
マグナス力(マグヌス力ともいう)とは、一様な流体の中におかれた回転している円柱や球に、流体の流れに対して垂直方向に働く力のことです。
野球の変化球における「流体」とは空気のことであり、その流体の流れとはボールの進行方向と逆向きに生じる流れになります。
ピッチャーがバックスピンの効いた直球を投げる場合を考えてみましょう。
下の画像でボールは右から左向きに進んでいるとします。(キャッチャーが左でピッチャーが右です。)
このとき、ボールの下側では回転方向と空気の流れが逆向きになるため、空気の摩擦が生じて空気の流れは相対的に遅くなります。
参考:http://www.salesio-sp.ac.jp/department/lab/yamasita/page1-14.html
一方、ボールの上側では回転方向と空気の流れが一致するため空気の流れが速くなります。空気の流れが速いところでは気圧が下がるというベルヌーイの定理(下記参照)により、この場合上下で気圧差が生じます。
当然、気圧の高い方から低い方に力は生じますので、ボールは上向きの力を受けることになります。この力をマグナス力と呼び、これによってボールは重力に反する力を得て、その結果「伸びのある直球」が生まれることになります。(これを「空気抵抗の差」と説明しているサイトや書籍があるのですが、厳密には気圧差であり空気抵抗ではありません。)
ベルヌーイの定理(ベルヌーイの法則)とは? (やや上級)
マグナス力の説明をすると、ベルヌーイの定理という言葉がよく出てきます。この定理を言葉で説明すると、「ある系における流体の運動エネルギーと位置エネルギーと圧力のエネルギーは常に一定になる」となります。
高校物理の力学で出てくる「力学的エネルギー保存の法則」に「圧力のエネルギー」加えてもやっぱり系のエネルギーは保存されるという意味です。そしてさらに「水1kg」に対してという条件を加え、質量mを消去し単位質量あたりの一般化した形がベルヌーイの定理の式として表されます。
このように言うととても難しく聞こえるのですが、変化球の仕組みを理解する上では「空気の流れが速いところでは気圧が下がる」とだけ理解できていれば問題ありません。空気の流れが速くなれば運動エネルギーが大きくなるので、その分圧力が下がって系全体のエネルギーが一定になるのです。
我々の身近なところで言いますと、シャワーカーテンの例が挙げられます。
勢いよく出てくるシャワーの水をシャワーカーテンに近づけてみると、シャワーカーテンが水に吸い寄せられてくるのが分かると思います。これはシャワーの水によって下向きの空気の流れが生じ、気圧が下がるのです。(シャワーカーテンの反対側では気圧は一定です)
もう一つは、電車の駅のホームで通過電車を待っていると、「電車が通過します。黄色い線の内側までお下がりください」という放送を聞いたことがあると思います。
これは単に危ないというのももちろんあるのですが、通過する電車の近くでは空気の流れが速くなり気圧が下がるため、あなたが通過電車に近づけば近づくほど電車に吸い寄せられてしまうからなのです。(絶対に実験はしないでください!)
他には飛行機の翼や噴水など、意外に身近なところにベルヌーイの定理は存在しているので皆さんもぜひ探してみてください。(こちらのサイトにベルヌーイの定理に基づく実験の例がいくつか紹介されています。)
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回転を加えるにはどうすればいいのか
以上のことから、カーブやシンカーなどの変化球はボールに回転を加えることによって、上下や左右の気圧差を生じさせ、その結果マグナス力によって曲がったり浮いたりすることが分かりました。(実際は浮き上がるほどの回転は与えられない。)
もちろん、これらの変化に加えて重力の影響も受けるので、「曲がりながら落ちる」という変化球も生まれます。
重力は全てのピッチャーに平等なので、あとは回転数の差が変化球の差になります。マグナス力は回転数に比例して大きくなりますから、回転数が高ければ高いほど変化の度合いも大きくなるのです。
つまり結論を言えば、あなたの変化球が曲がらないのは、理論的には「回転数が足りない」からなのです。いかにたくさんの回転を与えるかが、曲がらない変化球の解決策になります。(逆に曲がり過ぎるのは回転が多すぎるからということになります。)
ではボールに回転を加えるためにはどうすればいいのでしょうか?
この簡単そうで難しい質問の答えがすべての答えになるわけですが、次のようなステップで取り組んでみてください。
1. リリースの瞬間の意識やイメージを変える
たとえばスライダーの練習をしているとします。
ボールに横回転を加えるとき、ボールを切るイメージなのか、手首で回転を加えるイメージなのか、手首を固定したまま中指で回転を加えるのか人差し指で加えるのか、その場合指の腹なのか側面なのか指先なのか。このリリースの瞬間のイメージというのがとても大事なのです。
どのイメージで投げればボールに最も回転を加えられるのか、それを探してみてください。大事なのは意識やイメージだけを変えることです。
リリースのイメージはプロ野球投手や身近に居る変化球習得者を参考にしながら変えてみてください。いろんなピッチャーのイメージだけを取り入れて試すのもいいでしょう。特に多くのプロ野球投手はリリースの瞬間のイメージを明確に持っています。そしてひねりを加えることではなく、指先の感覚で回転を制御しているピッチャーがほとんどです。
闇雲に回転数を上げようとして手首や肘を捻ったりするのは、フォームを崩す原因にもなり、故障の原因にもなるので危険です。
リリースの瞬間にボールにはっきりと力が加わる感覚があるものを探していくことが大事です。キャッチャーやバッターの反応を見ながら、自分の変化球がどの程度変化しているのかを見極めていきましょう。
そして、「今のだ!」と思ったときの感覚をできるだけ具体的に言葉に残しておきましょう。そうすると不調に落ちいたっときにも取り戻しやすくなります。(たとえば、「指二本で斜めに切るイメージ」など)
2. 握り方を変えてみる
リリースの意識を変えてもうまくいかない場合は、ここで初めて握り方を変えてみましょう。そっくり変えるのも良いですし、掛ける縫い目の位置や向き、縫い目の山の右側なのか左側なのか真上なのかなど、微調整してみるのもいいでしょう。
握り方を変えると、再びリリースの瞬間のイメージを探していくことになります(ステップ1)。握りを変えることはスタート地点に戻ることを意味します。もう一度全てをリセットすることになるのですが、このようなステップを繰り返しながら取り組むことで必ずあなたにあった変化球の投げ方が見つかるはすです。
3. ひじの高さを変えてみる
もしそれでも駄目な場合は、「肘の高さを変える」という話になります。これはつまりフォームを変えるということなのですが、もちろんお勧めしません。フォームを変えてまでその変化球に固執するより、違う変化球を習得したほうが良いでしょう。
たとえば、オーバースローピッチャーが「ジャイロボール」投げたいがためにサイドスローにするという場合に相当するのですが、そこまでしてジャイロボールに固執する必要はないということです。自分のオーバースローにあった変化球を探すことが結果的にはバッターの脅威になるのです。
まとめ
回転系の変化球について、変化の原理とその取り組み方について説明しました。
- 回転系の変化球はボールの回転(スピン)によってマグナス力が生じることによって曲がる。
- マグナス力の変化と重力による効果が加わる。
- 変化の大きさは回転数によって決まる。(回転数が多いほど変化も大きくなる)
- ボールの回転数を上げる投げ方を探すことが大事
- その際、プロ野球投手や身近な変化球習得者のイメージを参考にする。
- それでも駄目な場合は握り方を変える。
- フォームを変えてまでその変化球に固執しない。
魔球といわれたスライダーの使い手ヤクルトの伊藤智仁投手はあるテレビ番組の取材で「回転は嘘をつかない」と言いました。回転系の変化球は回転数が命なのです。
ぜひ、参考にしてみてください。(次回コラムは「回転をなくす変化球」についてです。)
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